要約

調査の背景

  • 観光産業の発展に向け、ガイドの役割は重要さを増している。今後の日本のガイド制度について考察するため、計8つの国・地域のガイド制度について調査した。

調査の概要

  • 調査対象としたのは、世界の各地域で旅行者数が上位の8つの国・地域(日本・イギリス・フランス・スペイン・中国・台湾・アメリカ・タイ)。
  • それぞれの国・地域のガイド資格・認定制度について、文献調査を行った。

調査結果

  • 各国のガイド資格・認定制度
    各国のガイド資格・認定制度は、「①どのように統括・運営されるか」「②業務独占の有無」によって分類することができた。
    「①どのように統括・運営されるか」については、資格保持者の業務独占が認められる場合、国・自治体によって制度が統括・運営される傾向にあることが分かった。地域ごとに独立し、異なる制度運営を行っている国も存在した。
     「②業務独占の有無」については、多様なガイドの活動を認めながらも資格保持者のみ案内可能な施設を定める、一部業務独占の国・地域があることが分かった。また、業務独占が一部もしくは全て撤廃されている国では、大学・団体等が認定を行う傾向にあった。
  • 各国の資格取得・認定プロセス
    各国の資格取得・認定方法は、「試験」「研修」「指定資格の取得」のいずれかに分類することができた。試験を行う国が最も多く、また、筆記試験だけでなく口述試験や実技試験を採用する国が多かった。一方、研修や指定資格の取得によって認定を行う国では、資格取得までに要する時間が試験よりも長く、多様な知識・スキルが求められることが分かった。資格更新制度については設けられていない国も多く、日本の全国通訳案内士は5年ごとの研修受講による更新が義務付けられている点で特徴的であった。
  • 各国の対応言語
    資格・認定制度における対応言語に関して、多くの国では母国語・通訳どちらも資格制度を設けているが、日本・フランスのみ母国語ガイドの資格制度が存在しなかった。

考察

調査結果でも特徴的な5つの制度・施策について考察した。

  • 一部業務独占の導入
    イギリスやフランスのような一部施設で資格者のみに案内を認める形は、資格保有者の有効な活用方法である。歴史的に重要な施設の保護、価値の訴求といった効果が見込めるだけでなく、資格を取得・保有するインセンティブともなると考えられる。
  • 教育機関の活用
    フランス・タイのように大学・団体等を活用することで、講座内容の質担保、会場や講師の手配、資格・認定の取得機会増加といった効果があると考えられる。
  • 資格・認定における実務面の重視
    日本の全国通訳案内士制度は、国全体で単一の試験が行われていること、5年ごとの研修受講が義務化されていることなどが特徴的であり、国としてのガイドの質担保の取組みが見られた。また、他国では、イギリスの試験における口述・実技、台湾の資格取得後の研修といった実践的スキルを重視した制度が特徴的であった。試験・研修は、ガイドの実務スキル向上に一定の効果があると考えられる。
  • 母国語ガイドの人材育成・認定導入
    日本・フランス以外の国・地域では母国語・通訳の区別なくガイドの資格・認定制度が運用されており、日本・フランスのみ母国語ガイドの制度が存在しなかった。日本・フランス以外の国・地域では、母国語ガイドに関しても求められる知識・スキルの要件は概ね通訳ガイドと共通している。母国語ガイドの資格・認定制度の整備は、自国民がサービスを利用することでサービス品質の高いガイドが明確になり、結果として社会全体のガイドのサービス品質が向上するといったメリットがあると考えられる。
  • ガイドに関する評価基準の標準化
    資格・認定を持たないガイドについては、各国で活動が見られた一方、研修制度等はどの国・地域にも見受けられず、国際的な取組みも行われていない。加えて、標準化されたガイドの評価基準は国際的にも整備されておらず、国連世界観光機関(UNWTO)、国際標準化機構(ISO)においても、制度・基準整備の取組みは見受けられなかった。ガイドには様々な種別が存在するが、「旅行者を希望する言語で案内し、その地域の遺産や施設などの観光資源について説明を行う」点は共通しており、標準化された評価基準が整備されることが望ましい。それによって各国でサービス品質の高いガイドが明確になり、結果として各国の観光サービスの品質が向上すると考えられる。

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