イギリス
概観
イギリスには、公的に認められているガイド制度として、「バッジ・ツーリスト・ガイド」が存在する。同制度は母国語ガイドだけでなく、通訳ガイドの認定もあわせて行う。
バッジ・ツーリスト・ガイドの認定を受けていないガイドも自由に活動することができるため、一部の観光施設では有償で独自のガイドサービスが提供されている 。ただし、国内で文化的に重要な価値を持つ施設(セントポール大聖堂、ウェストミンスター寺院等)に限り、同認定を持っているガイドにしか案内が認められていない*1。
ガイド資格・認定制度
ⅰ 制度概要
バッジ・ツーリスト・ガイドは、使用する言語を問わず、案内業務を行うものを対象とした制度である。イングランドでは「Institute of Tourist Guiding」、スコットランドでは「Scottish Tourist Guides Association」という専門組織が、各地域内で統一した基準を定めており、地元の観光団体や英国政府観光局がその基準に従って認定を行っている。
認定の種類には、「ホワイトバッジ」「グリーンバッジ」「ブルーバッジ」の3種類が存在するが、特に「ブルーバッジ」は、厳しい研修や試験を通過したサービス品質の高いガイドとして社会的に認知されている*2。国内で文化的に重要な価値を持つ施設(セントポール大聖堂、ウェストミンスター寺院等)は「ブルーバッジ」に認定されたガイドのみ案内が認められている。2020年時点で、ブルーバッジの登録人数は約1,900人となっている*3。
バッジの種類に応じて、以下のように案内可能な範囲が異なる。
【ホワイトバッジ】
特定のスポット(宗教施設、博物館など)、または一部の移動ルート(ボート、路面電車など)
【グリーンバッジ】
町、地方部、または一部エリアや施設でのウォーキングツアー
【ブルーバッジ】
町全体、大都市圏、および車両(車、電車など)といった広範な範囲でのツアー
ⅱ 資格取得・認定プロセス
バッジ・ツーリスト・ガイドは、いずれのレベルも専用の試験に合格することで認定される。また、認定に必須ではないが、各ガイド団体が試験科目について学ぶための事前講習を開催している。本項ではロンドンにおける「ブルーバッジ」の認定プロセスを例に、事前講習と試験の概要を説明する。なお、講習の構成や試験で問われる内容については、地域の観光エリア/スポットに関連する内容を除き、地域によって大きな差はない。
【講習概要】*4
【講習内容】
毎週行われる実地研修と隔週で行われる2時間の講義で構成され、以下のスキル・知識を習得する。
【試験概要】*5
【試験内容】
試験は「筆記試験」「実技試験」「ツアープランニング」「語学試験」で構成される。
- 筆記試験
「背景知識」「特定エリアの知識」の計2科目で構成される。- 背景知識(120分)
「憲法・政府・法律」「金融・税務」といった一般教養から「建築・庭園」「宗教と多文化主義」といった専門知識まで、17分野に渡る幅広い知識が問われる。 - 特定エリアの知識(240分)
地域ごとの主な観光エリア/スポットに関する知識が問われる。
- 背景知識(120分)
- 実技試験
以下、4パターンの条件下で実施される。- ウォーキングツアー
- 特定の宗教施設内
- 特定の博物館もしくはギャラリー内
- 車両を用いたツアー
- ツアープランニング
一定の条件下で、主要な史跡を巡るツアーを企画する。旅程表の作成だけではなく、手配業務や事前調査等、ツアーの催行に必要な準備事項全般が問われる。 - 語学試験
外国語であればヨーロッパ言語共通フレームワークのC1レベル(上級)、英語であればC2レベル(最上級)に相当する語学力が問われる*6。
グリーンバッジ・ホワイトバッジ
「グリーンバッジ」「ホワイトバッジ」は、認められている案内業務のエリアが制限される代わりに、試験で問われる範囲も少ない。
【グリーンバッジ】
町、地方部、または一部エリアや施設でのウォーキングツアーのガイドを対象とした認定制度である。
認定のためにはブルーバッジガイドと同様の科目を受験する必要があるが、各々で問われる範囲が少ない。筆記試験は「背景知識」の1科目のみ、実技試験も「指定の1か所」および「指定のルート」のみとなっている。
また、ブルーバッジ同様、認定に必須ではないが、各ガイド団体が試験科目について学ぶための事前講習を開催している。例として、「Institute of Tourist Guiding」が実施している講習は、60時間の座学・30時間の実習などで構成され、約1,700ポンド(日本円で約24万円程度)で受講できる。
【ホワイトバッジ】
特定のスポット(宗教施設、博物館など)、または一部の移動ルート(ボート、路面電車など)のガイドを対象とした認定制度である。
認定試験は筆記試験、実技試験、語学試験から構成される。筆記試験は「背景知識」の1科目のみで、回答形式も短答のみのシンプルな形式となっている。また、実技試験は特定の施設もしくは周辺のウォーキングのみとなっている。なお、一部タクシーやバスの運転手向けに、車やバスなどのルートで実技試験を実施する場合もある。
ⅲ 資格取得・認定後の対応
各地のガイド団体が定期的に講習会等を実施しているが、受講義務は存在せず、特に更新の必要もない。
参考リンク
- Westminster Abbey “Guided tours”
- Institute of Tourist Guiding “Our Qualifications Explained”
- Input Youth “Tourist Guide”
- Institute of Tourist Guiding “LONDON BLUE BADGE TOURIST GUIDE TRAINING COURSE 2020-22”
- Institute of Tourist Guiding “EXAMINATIONS HANDBOOK”
- スピーキング能力で言えば、C1レベルは表現の仕方に悩むことなく自分の考えをよどみなく流暢に表現できる、C2レベルは話の流れに一貫性をもたせながら議論や記述を再構成し、様々な話し手や書誌からの情報を要約できる。(参考:EF「上級レベル(C1)」