日本
概観
日本には、「全国通訳案内士」と「地域通訳案内士」の2種類のガイド認定制度が存在する。いずれも通訳ガイド向けの制度であり、母国語ガイド向けの制度は存在しない。
かつて有償での通訳ガイド業務に従事するためにはいずれかの資格取得が必須とされていたが、2018年1月に「通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律」が施行され、資格・認定の有無に関わらず通訳ガイド業務に従事できるようになった。
上記の規制撤廃により、近年は資格・認定を持たないガイドがガイドボランティア団体や旅行会社を通じて活動するケースが多く見られる。また、博物館や美術館内を案内する施設専門ガイドが存在し、無償サービスとして提供されるものもある。
ガイド資格・認定制度
全国通訳案内士
ⅰ 制度概要
全国通訳案内士は、訪日外国人旅行者向けに通訳案内の業務を行うものを対象とした制度である。
1949年に「通訳案内業法」が制定されて、制度が開始し、2006年に「通訳案内士法」に名称が改正された*1。
2018年には制度の内容が大きく改正され、業務独占規制が撤廃されたほか、試験科目の見直しや定期研修受講の義務付けといった内容が加えられた。
なお、一部の観光施設では、本資格・認定証を提示することで入場料割引等の特典を受けることが可能である。2019年時点で、全国通訳案内士の登録人数は25,239人となっている。
ⅱ 資格取得・認定プロセス
全国通訳案内士は、日本政府観光局(JNTO)が運営する「全国通訳案内士試験」に合格することで認定される。
【試験概要】
【試験内容】
試験は「筆記試験」と「口述試験」で構成される。
- 筆記試験
「外国語」「日本地理」「日本歴史」「産業・経済・政治及び文化に関する一般常識」「通訳案内の実務」の計5科目で構成される。
- 外国語
業務を適切に行うために必要な読解力、日本文化等についての説明力、語彙力等の総合的な外国語の能力が問われる。英語、中国語、韓国語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、タイ語の計10か国語から言語を選択して受験する。 - 日本地理
訪日外国人旅行者の関心が高い観光地を中心に、日本地理の基礎的な知識が問われる。 - 日本歴史
訪日外国人旅行者の関心が高い観光地の背景や、日本人の生活文化に繋がる内容を中心に、日本歴史の基礎的な知識が問われる。 - 産業・経済・政治及び文化に関する一般常識
旅行者の安全・安心確保の方法や、新聞(一般紙)で取り上げられるような時事、訪日外国人旅行者の関心が高い内容を中心に、現代の日本の産業、経済、政治および文化の基礎的な知識が問われる。 - 通訳案内の実務
法令に関する知識や旅程管理の実務、訪日外国人旅行者の国別・文化別の特徴など、通訳案内に必要となる基礎的な知識が問われる。 - 口述試験
訪日外国人旅行者の関心が強い日本地理、日本歴史並びに産業、経済、政治および文化を題材として、疑似的な通訳案内業務を実施する。主に日本語の外国語訳とその問題文に関連した質疑応答、テーマに沿ったプレゼンテーションと質疑応答で構成される。
ⅲ 資格取得・認定後の対応*2
5年ごとに登録研修機関*3が行う「登録研修機関研修」を受講することが義務づけられている。研修では、旅程管理の実務や災害時の対応をはじめ、通訳案内の実務に必要となる基礎的な知識に関する講義が行われる。全国通訳案内士が本研修の受講を怠った場合、都道府県の判断により、登録が取消される場合がある。
地域通訳案内士
ⅰ 制度概要
地域通訳案内士は、特定の地域において、訪日外国人旅行者向けに通訳案内の業務を行うものを対象とした制度であり、特に該当する地域固有の歴史・地理・文化等の現地情報に精通した者とされている。同制度も「通訳案内士法」によって規定されている。
地域通訳案内士*4
は、2007年に6の自治体で導入された「地域限定通訳案内士」から制度が開始された。2013年には、地域特措法や構造改革特区法に基づき「地域特例通訳案内士」の制度が19の自治体に導入されたが、2018年の通訳案内士法改正により、両制度が統合され、「地域通訳案内士」の制度に一本化された。改正以降、13の自治体に導入されている。
なお、同制度は、各自治体が自由に資格認定を行えるわけではなく、あらかじめ「地域通訳案内士育成等計画」を定めたうえで、観光庁長官の同意を取得する必要がある。2020年7月時点で計38地域が導入を完了しており*5
、登録人数は3,259人となっている*6。
ⅱ 資格取得・認定プロセス
地域通訳案内士は、各自治体が定める研修を受講することで取得できる7)。
一部の自治体では、研修の運営を旅行会社に委託しているケースも見られる。研修期間・受講資格・受講料は地域によって異なる。
【研修概要】
【研修内容】
地域によって異なるが、旅程管理、救急救命、現場実習、語学、観光に関する知識などが含まれることが多い。また、地域によって対象言語は異なるが、多くは英語を採用している。
【地域通訳案内士導入地域】
ⅲ 資格取得・認定後の対応
観光庁のガイドラインでは定期的な研修受講の義務づけがなされていないものの「全国通訳案内士と同様に、地域通訳案内士の認定後において、地方公共団体が自主的に定期研修を行うことにより、質の維持・向上を図っていくことが望ましい」と記載されている。実際に定期的な更新を義務付ける自治体も存在し、例えば京都市では5年ごとの再登録手続きを求めている8)
。
参考リンク
- 通訳案内士法(昭和二十四年法律第二百十号)
- 観光庁「通訳ガイド制度」
- うち17地域では、2020年6月時点で新規の募集は行われていない。また新型コロナウイルス感染症の影響で募集を延期している地域もある。
- 観光庁「地域通訳案内士の導入状況(全国一覧)」
- 観光庁「通訳ガイド制度」
- 京都市観光協会「京都市認定通訳ガイド(京都市・宇治市・大津市地域通訳案内士)第5期研修受講生の募集について」