はじめに
日本の観光市場は年々拡大を続けており、2019年時点で国内における日本人・外国人の旅行消費額は約27兆円となっています*1。
同市場は前年から約7%成長*2
しており、政府からも成長産業として期待が寄せられています。2020年に入り、新型コロナウイルス感染症の影響があったものの、政府主導での国内旅行キャンペーンが実施されるなど、回復への動きが強まっています。
また、人々には、旅行への根強い潜在ニーズがあります。世界最大の旅行プラットフォーム「Tripadvisor」が行った世界6か国(アメリカ・イギリス・オーストラリア・イタリア・日本・シンガポール)における調査*3によれば、回答者の6割が「外出規制で今すぐには行けなくても、私にとって旅行は重要なものだ」と回答し、日本人は
61%が「1年以内には旅行に出たい」と回答したと発表しました。
観光産業においては、「モノ消費からコト消費」と言われるように体験が重視され、旅行のスタイルも団体旅行から個人旅行へ変化するなど、国内外の旅行者のニーズが次第に変わりつつあります。そのニーズに対応するために、「ガイド」の役割が重要視されています。
日本全国では多種多様なガイドが活動しており、代表的なバスツアーや団体ツアーに帯同するガイドだけでなく、山・海や自然公園といったエコツーリズムに関わるガイド、博物館や美術館内で活動する施設ガイド、各地で活動するボランティアガイドなどが良く知られています。
近年はウェブサービスを介して、個人がアクティビティを提供する形態も増加しています。
また、通訳ガイドに関しては、訪日外国人旅行者の急増に伴い法改正が行われたこともあり、個人ガイドの増加や各地でのガイド制度導入の動きが活発です。
ガイドは、旅行者にただ説明や案内を行うだけでなく、観光資源の魅力とその背景にあるストーリーを伝える「語り部」であり、地域を代表しその魅力を旅行者に発信する「観光大使」でもあります。
インターネットを通じて容易に情報が手に入る現代だからこそ、現地での交流や生きた情報を求める旅行者にとって、ガイドは重要な役割を果たします。
また、地域にとっても、地域の魅力をより良く伝えるガイドは、地域の観光、ひいては経済発展に多大に貢献する存在である、と言えるでしょう。
当協会はこれまで、地域観光の担い手である通訳ガイドの育成や普及啓蒙に努めてきました。
しかしながら、日本のガイド産業はまだ発展途上にあります。ガイドという職業のみで生計を立てられる人は極めて限定的であり、提供するサービスの品質も一定ではありません。
様々なガイドが活動し、ガイドの役割がますます重要視されるなか、これからの日本のガイドの在り方について再考する必要があります。
そのため当協会は、『ガイド白書』と題してガイドに関する様々な調査を行うこととしました。本書は日本のガイドの在り方について提言するための基礎研究であると同時に、社会全体でガイドについて考える契機になると考えています。
ガイド白書の最初のテーマには、「各国のガイド制度」を選びました。日本のガイド制度の将来を考察するにあたって、各国がガイドに対してどのような制度を採っているかを調査することは、有用な示唆を与えてくれるでしょう。
第1章「調査概要」では本調査の意義や調査範囲、第2章「各国のガイド制度詳細」では計8つの国・地域の詳細な調査内容、第3章「調査結果」では各国制度に見られる傾向、第4章「考察」では特徴的な制度・施策とその有効性について述べています。
本書が多くの皆様にとって、ガイドについて理解する一助となることを願っています。
なお、本書に対するご意見、ご感想は、ぜひ協会事務局宛てにお寄せいただければと思います。